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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)586号 決定 1985年12月06日

抗告人

甲野春子

甲野忍

甲野秋代

右三名代理人弁護士

平山知子

小山久子

相手方

乙野花子

右代理人弁護士

島田修一

主文

原決定を取り消す。

相手方の更正決定の申立てを却下する。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。相手方の更正決定の申立てを却下する。」旨の裁判を求めるものであり、その理由は別紙抗告状記載のとおりである。

二1  本件更正決定が民事訴訟法第一九四条第一項の要件を満たすものかどうかについて判断するに、本件記録によれば、相手方の夫亡乙野太郎は昭和五九年一月一二日死亡したが、同人は抗告人甲野秋代と内縁関係にあり、秋代との間に抗告人甲野春子、同甲野忍をもうけ、太郎は右両名を認知したこと、太郎は同月九日別紙目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について、その所有権の二分の一を相手方に、各四分の一を抗告人甲野春子及び同甲野忍に相続させる旨の公正証書遺言をしたところ、太郎の死亡により右遺言は効力を生じたこと、これに対し相手方は同年五月一五日東京家庭裁判所に遺産分割等の調停を申し立てた結果、同六〇年四月五日、本件不動産については「相手方の単独取得とし、本件不動産については当事者全員は相続を登記原因とする所有権移転登記手続をする。」との調停が成立したこと、前記公正証書遺言では遺言執行者が選任されているところ、右遺言執行者は同年九月一〇日、右遺言どおりに本件不動産の所有権の二分の一を相手方に、各四分の一を抗告人甲野春子、同甲野忍に各相続を原因とする所有権移転登記手続をしたことが認められる。

2  ところで、遺産分割により遺産に属する不動産の単独所有者となつた相続人が自己のために所有権移転登記を受けるについては、当該不動産につき相続人全員のための相続による所有権移転登記(以下「相続登記」という。)が行われたか否かによりその手続を異にする。すなわち、相続登記の未了の間は、当該相続人は、戸籍謄本及び右遺産分割協議書(遺産分割が家庭裁判所の調停でなされればその調停調書)を不動産登記法四一条の相続を証する書面とし、同法二七条により直接被相続人から相続を原因として所有権移転登記を受けることができる。

この場合、当該相続人は、一旦相続登記を経由した後、遺産分割を原因として他の相続人から持分移転登記を受ける必要のないことは同法二七条及び民法九〇九条本文の各規定に照らし明らかである。

これに対し、相続登記がなされた後において前記のような遺産分割が行われたときは、当該相続人は、登記手続上、右の相続登記を当該相続人の単独所有と更正する更正登記を求めるか、又は他の相続人からその持分の移転登記を求める以外に右不動産を自己の単独所有名義とする方法はない。そこで、登記実務では一旦なされた相続登記が当初から無効のものといえないことを理由に、当該相続人は、不動産登記法二六条に従い、他の相続人を登記義務者として遺産分割を原因とする持分移転登記を求めるべきものと解されている。もつとも、右の遺産分割が家庭裁判所の調停によりなされたときは、右調停調書は、同法二七条にいわゆる判決に該当するので、当該相続人は、右調停調書により単独で他の相続人から自己への持分移転登記を申請できることはいうまでもない。このように、遺産分割による所有権移転登記の手続は、相続登記が未了であるか否かにより根本的に異なるものがあるといわなければならない。

3  そこで本件についてこれをみるに、前記のとおり右調停調書は、相続登記未了の間に作成され、右調停条項によれば、本件不動産は相手方の単独所有とし、当事者全員は、本件不動産につき相続を登記原因とする所有権移転登記手続をするというのであるから、措辞妥当を欠くところがあるとはいえ、原裁判所は、相続登記未了の間における相手方のための所有権移転登記に関する調停条項を定めたことが明らかである。したがつて、右調停条項は、抗告人から相手方への持分の移転登記手続を定めた条項とみるべきではなく、単に本件不動産が遺産分割により相手方の単独所有に属することになつたこと、相手方は右調停条項の記載のある右調停調書を同法四一条の相続を証する書面として相続による所有権移転登記をすることができる旨を定めた条項とみるのが相当である。

そうだとすれば、右調停条項に誤りはないから、原決定のような更正決定をすることは許されないものといわなければならない。

三よつて、抗告理由について判断するまでもなく、原決定は違法であるからこれを取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官吉野 衛 裁判官時岡 泰 裁判官山崎健二)

目  録<省略>

〔抗 告 状〕

右申立人と相手方間の東京家庭裁判所昭和六〇年(家ロ)第七八号事件について、東京家庭裁判所が相手方の申立によつて昭和六〇年九月二七日になした更正審判に対して不服であるから即時抗告をいたします。

〔原決定の表示〕

事件番号 昭和六〇年(家ロ)第七八号

主文 昭和六〇年四月五日当庁において成立した昭和五九年(家イ)第二五四四、第二五四五号遺産分割及び寄与分事件の調停調書の条項中第一項第一号全部を削除し、同部分を次のとおり更正する。

同遺産目録記載の一の(1)(2)の不動産につき、東京法務局大森出張所昭和六〇年九月一〇日受付第四二七四九号をもつてした原因昭和五九年一月一二日相続、相続人乙野花子(持分四分の二。大田区○○○一丁目二〇番一六号)、甲野春子(持分四分の一。新宿区○○○二丁目一一番一一号)、甲野忍(持分四分の一。同所同番同号)の登記を、昭和六〇年四月五日遺産分割を原因として甲野春子および甲野忍はその持分全部をそれぞれ申立人乙野花子に移転する登記手続をする。同目録(3)の動産は申立人の単独取得とする。

〔抗告の趣旨〕

一、原決定を取消す。

二、相手方の更正決定の申立を却下する。

との裁判を求める。

〔抗告の理由〕

一、申立人と相手方の昭和五九年(家イ)第二五四四、第二五四五遺産分割及び寄与分事件について昭和六〇年四月五日に成立した調停は以下の理由に基づき無効である。

1、後記表示の亡乙野太郎所有不動産(以下本件不動産という)について、昭和五九年第一二号東京法務局所属公証人坂上吉男作成の公正遺言証書が作成されている。

右公正遺言証書によれば(1)遺言者乙野太郎は本件不動産については抗告人甲野春子共有持分四分の一、抗告人甲野忍共有持分四分の一、相手方に共有持分二分の一宛それぞれ相続させる旨遺言し、(2)遺言執行者として左の二名を指定している。

遺言執行者の表示

東京都中央区銀座五―三―一二壱番館ビル

橋本合同法律事務所

弁護士 石 川 常 昌

(昭和七年六月生)

右同所

弁護士 田多井 啓 州

(昭和一七年二月生)

2、ところが前記調停による本件不動産の遺産分割は右遺言執行人の同意を得ていないため民法一〇一三条に基づき無効である。

二、しかるに原決定はこの点を看過して更正決定をしたもので、違法である。

三、よつて抗告の趣旨記載の裁判を求める。

不動産の表示<省略>

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